きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

進化の教科書 第3巻 系統樹や生態から見た進化(Carl Zimmerほか)

 2013年のEvolution: Making Sense of Lifeを訳したものである。新刊で見かけたので手を出した。3分冊の最終巻で第9章から13章まで。1、2巻を読んでいなくても何とかなるが、時間を見つけて読むつもりである。

 

第9章 系統樹

第10章 遺伝子の歴史

第11章 遺伝子から表現型へ

第12章 種間関係の進化

第13章 行動の進化

 

 カラーのイラストや写真がふんだんに使われ、学生だけでなく一般の読者も読みやすくなっている。ただ、図と本文の見開きが別ページになっていることも多く、参照するのがストレスになる。訳語が定まっていないのもあるだろうか、カタカナ表記されている用語もあるが、できれば英語表記も併せて欲しかった。原書Evolutionと比較すればよいのだろうが、せっかくの3分冊にしたメリットがなくなる。

 

以下メモ

第9章 系統樹

系統樹(Phylogenetic tree, Tree):種や集団や遺伝子の進化史の視覚的表現

・内点=分岐点(node)

・クレード(clade, 単系統群):ある生物とそのすべての子孫=monophyletic group 単系統群

系統樹の端点(terminal node)同士を比較すると類縁または進化の誤解が生じやすい。端点が近いからと言って類縁関係にあるわけではなく、端点の並び順に進化したわけでもない。

・ホモプラシー(homoplasy、相似器官、同形形質):共通の起源をもたない、形質・状態の類似性。収斂(convergent)と、復帰によって生じる。

・外適応(exaptation):別の機能へと借用された形質

 

第10章 遺伝子の歴史

 「種の系統樹」と同様に「遺伝子の系統樹」があり、両者は一致することが多いが、種が急速に分化したときや、対立遺伝子がなかなか合祖しないときは、ずれが生じやすい。

合祖(coalescent):時間的に遡って、遺伝子系図内の二つの対立遺伝子が共通祖先に結合する過程。遺伝子の系統樹でconcestor(MRCA、most recent common ancestor)をたどる。

 

第11章 遺伝子から発現型へ

・パラログ:遺伝子重複によって生じた相同遺伝子。パラログどうしは遺伝子ファミリーを作る。

・オルソログ:種分化によって生じた相同遺伝子。

・遺伝子の使い回し:突然変異によって遺伝子あるいは遺伝子ネットワークが別の機能に使われること。

・進化evolution

・発生development

・モジュール:他の遺伝子とは独立に発現できる遺伝子ネットワーク。

収斂進化:異なる系統で異なる発生経路で類似した表現型になる。

 有胎盤類と有袋類でいうと

 モグラとフクロモグラ

 アリクイとフクロアリクイ

 ネズミとフクロマウス

 キツネザルとブチクスクス

 モモンガとフクロモモンガ

 ボブキャットとオオフクロネコ

 オオカミとフクロオオカミ

・平行進化:異なる系統で同一の発生回路で類似した表現型になる。

 膵臓ではたらき感染症と闘うたんぱく質であるディフェンシンが変化しヘビ毒を作るようになった。また心臓の周りの筋肉を弛緩させるたんぱく質が変化し、獲物を気絶させるヘビ毒も作った。大動脈を弛緩させ急激な血圧低下をもたらす毒に進化したのだ。いずれも、遺伝子重複・使い回し・突然変異がからんでいる。

 

第12章 種間関係の進化

  進化の大部分は共進化(Co-evolution)である。両者が互いに適応し続けることによって、ますます相互作用が強まる。宿主と病原体のイタチごっこもその一つ。赤の女王仮説ともつながる(詳しくは第1巻)。皮膚にフグ毒(テトロドトキシン)をもつサメハダイモリとテトロドトキシン耐性をもちサメハダイモリを食べるコモンガーターヘビも共進化的軍拡競争(共進化的エスカレーション、進化的軍拡競争)の例である。病原性が高い病原体があっても、宿主の個体密度が減少すると、病原性の低い病原体が残るなど、減衰的共進化もある。軍拡競争は種内でも種間でもゲノム内でも雌雄でも、擬態でミミック生物とモデル生物の間でも起こる。

ミュラー型擬態:複数の有害またはおいしくない種が、似た姿に収斂すること。捕食者に学習させて、食べられるのを防ぐ。系統的に離れた種が地域をこえて擬態する。

・ベイツ型擬態:無害な種が有害またはおいしくない種と似た姿に収斂すること。まねる側(ミミック生物)の個体数が多いと、まねられる側(モデル生物)に被害が出始め、いたちごっこで共進化する。

 

第13章 行動の進化

 自然淘汰に必要な3つの条件は、遺伝する変異があり、その変異で表現型に違いが生じ、表現型の違いによって適応度が異なること。生物の行動も自然淘汰されると言える。

擬人化の危険性:動物は自分の行動を理解していて、人間と同様な動機を他の生物も持っていると思い込みがち。適応的な動物の行動は動機がなくても可能だし、人間も自分が何をしているのか知らないまま多くの決断をしている。自分が何をしているのか知らなくても、適応度が高ければ行動は進化する。

 個体淘汰と群淘汰では個体淘汰の方が影響が強い。それでも群れを作るのは群れのコストよりも利益が多い場合である。利益の例としては警戒の強化、希釈効果、防衛力の強化、食料採集や狩りの協力、資源の防衛力の強化など。コストとしては、捕食者に見つかりやすくなる、食料を巡る争いが激しくなる、繁殖を巡る争いが激しくなる、父親や母親が不確実になる、病気や寄生者に感染しやすくなるなど。体が大きく優位な個体ほど、群れで暮らす利益を享受できる。劣位の個体は小さな群れで、あるいは一匹で暮らしたほうが得な場合もある。

希釈効果:捕食者に襲われたときに、群れでいることで食べられる確率が低くなること。

 利他行動の説明として、ハミルトンの包括適応度がある。自分の繁殖に寄与する直接適応度と、自身の行動による血縁者の繁殖の増加分である間接適応度の和として表す。たとえば、自分の子は自分の遺伝子を50%引き継ぐが、兄弟姉妹も50%同じ遺伝子を持っている。孫、甥、姪は25%だ。そのため、コストが見合えば兄弟姉妹や甥、姪を手伝う価値があることになる。

 血縁淘汰の考え方だと、血縁認識が問題になる。雌は胎児や、自分の産んだ卵は自分の子であることは確実だが、オスは競争関係にあるので、オスと交尾したメスはそのオスの子を産むとは限らない。血縁認識として臭いを利用している生物も多い。

 アリ、ハチなどは半倍数性の性決定を行う。雌は受精卵から生まれる2倍体で、雄は未受精卵から生まれる1倍体である。女王は1匹の雄とだけ交尾し、生まれたメスは、すべて1倍体の父親から同じ遺伝子をもらう。そのため、娘どうしの血縁度は0.75となり、女王と娘の血縁度0.5より大きい。このような状況では雌は自分で子を作るよりも、女王に産んでもらった方が血縁度が高い個体が生まれることになる。