きまぶろ

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日経サイエンス 2018年3月号 生命の起源

 今号は微生物ネタが豊富。気になった記事は以下の3本。

 

○暗い太陽のパラドックス

 星進化の標準モデルによると、30~40億年前の太古代は、太陽光度が現在より20~30%低く、全球凍結するレベルだった。なのに太古代は全球凍結しなかった。全球凍結があったのはいずれも30億年前以降である。太古代の海水温は30℃くらいと見積もられており、55℃~85℃という説もある。

 二酸化炭素濃度は現在より低く、温暖化の原因はメタンだった。シアノバクテリアが繁栄する前で、大気中に酸素もなく、したがってオゾン層も形成されていなかった。大気中に相当量残存していた水素と海水中の二酸化炭素から、水素資化光合成細菌、鉄酸化光合成細菌がメタンを作り、紫外線がメタンを分解するというサイクルがあったらしい。

 

○生命の起源("Life Spring")

 生命の起源にはいくつかの説があり、近年では海底熱水孔起源説が有力だった。熱水噴出孔ではエネルギー、栄養物、安全な場所はあるが、必要な分子が拡散してしまうという欠点もあり、検証も不十分だった。これに対し、陸上温泉起源説が注目を浴びている。陸上温泉では、熱源も素材もあり、酸性かつ高温下で乾湿サイクルまでも備えている。どちらの説をとるかにより、太陽系内生命探査候補天体も異なってくる。

 生命誕生にいたる流れは7つの段階に分けられる。

 1合成:アミノ酸などは宇宙で合成され、降ってくる

 2蓄積:温泉の熱水だまりに有機物が蓄積する

 3濃縮:脂質で囲まれた小胞内で濃縮される

 4サイクル:乾燥期(重合)→湿潤期(プロトセルの形成)→湿潤ゲル(プロゲノート:プロトセルが集まり、重合体セットを交換)

 5拡散:光合成能力や分裂能力を得たものも現れ、最初の生きた微生物群へ

 6適応:淡水から河口、塩水へ

 7コロニー形成:ストロマトライトなど

 

○地下にいた始原生命体

 地下深部の花崗岩中に微生物が発見された。花崗岩は陸上にしかない岩石である。発見された微生物はゲノムも小さく、生命に必須の遺伝子の多くが欠落している。これらの微生物は培養に成功していないため実態は謎だった。いまはメタゲノム解析で、どんなゲノムの生物がどれくらいいるかわかるようになり、3割がパークバクテリアでCPR細菌のひとつであることがわかった。非常に古い細菌で、生命の陸上起源説にもつながる。

 微生物の最小サイズが0.2~0.3μmであるため、今までは0.2μmのフィルターでろ過した水のメタゲノム解析を行ってきた。2015年にバンフィールドらが0.2μm未満の微生物もあわせ、全体を再構成したところ、CPR細菌は地上では少数派だが、普通の生物が生きていけない地下深部では多数派であることがわかった。新発見された多数の微生物は細菌ドメインに属しているが、「門」のレベルでみな新種とわかり、35門以上の微生物が発見された。35門というのは動物界の門の数と同じである。これらの微生物はCPRと略称された。(Candidate Phyla:「培養例のない生物の門」+Radiation「放射状に広がる」)

 生命はCPR細菌→細菌→古細菌→真核生物の順に進化したとみられ、古いものほど多様性が豊かである。CPR細菌とは別にメタンを利用する細菌も発見され、これは同位体分析により、マグマ由来のメタンを利用していたことがわかった。

 CPR細菌は花崗岩に貼りつき、鉱物表面での触媒作用を利用していたらしい。花崗岩の生成には水が必要で、地球でのみ発見されている。基本的には微生物は地上からやってきて(降りてきて)地下に棲みつく。

 生命の維持に必要なATPの合成は3つの方法がある。

 ①発酵:糖などの高カロリー有機物が酸化する際に得られる化学エネルギーを利用

 ②光合成:体内の電子伝達系を利用。外部エネルギーとして太陽光を利用。

 ③呼吸 :体内の電子伝達系を利用。電子供与体と電子受容体を使い電子を流す。

ヒトの呼吸は電子供与体として有機物、電子受容体として酸素を使っている。微生物が利用する電子供与体は様々で、水素、硫化水素、メタンを利用するものなどがいる。電子受容体としても酸素以外に硝酸、硫酸、二酸化炭素ウランを利用するものまでいる。

 アメリカのシダーズで発見されたパークバクテリアは40万塩基対で、遺伝子がたった400のみで、生命に必要な遺伝子がいくつも欠落している。欠落していたのはATP合成酵素(呼吸できない)、電子伝達系、発酵、DNA合成、アミノ酸合成、DNAの複製、転写、リン脂質を作る遺伝子などである。生きていること自体が不思議な微生物だが、メタゲノム解析で、増殖もさかんに行っていることがわかった。パークバクテリアの凝集体が蛇紋岩をエネルギー源としていたのかもしれない。

 生物の体内のナトリウムとカリウムのイオン比は10:1で、これは花崗岩を母岩とする温泉水と同じである。40億年前の海では100:1ので、生命が海中で生まれたとは考えにくい。