きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

わたしの忘れ物(乾ルカ)

 恵麻が2か月の短期バイトを始めた北海道のショッピングセンターの忘れ物センターは、自分など役立たずで必要とされているようには見えないが、2名だけの職員が温かく迎え入れてくれた。恵麻は忘れ物センター働くうちに、ガラクタのようにも見える忘れ物の中には落とし主の、あるいは落とし主にとって大切な人の思いが込められていることを知る。自信を持てず存在感も薄く、自身を半透明の「ミス・セロファン」と自虐的に呼ぶ恵麻は、最後に自分が忘れ物センターで働く意味を知る。

 

 連作の形式で、それぞれに落し物あるいは落とし主についての謎解きがある。伏線もしっかりとしている。恵麻と疎遠の家族、恵麻とすれ違ってしまった親友の2つが最後に修復されるのだろうと予想しつつ読み進めると、意外な事実が判明する。2度読みしたくなる傑作。ミステリーとして伏線と謎を並べるだけでなく、風景や周囲の描写もすばらしい。

 

 叙述トリックの作品は、驚きで読み返すこともあるがあまり好きにはなれなかった。それは、読者をミスリードさせることを主眼に置き、作品から叙述トリックを取り除くとほどんど何も残らない作品だと感じることが原因だと今更ながら気づいた。本書は叙述トリックなしでも楽しめる点において非常に優れている。