きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

恋するコンピュータ(黒川伊保子)

 AIの研究者であり、感性工学会会員である著者による、AI、感性、言葉についての本。自身の子の成長を見守る中での気づきも役立っている。

 

認識について:

 人間にしろ機会にしろ、誰かに対して情緒性を含んだホスピタリティを発揮しようとしたら、その相手を見つめるしかない。ひいては自分と相手を取り巻くすべてのことを見つめることになる。

 人の脳は認識→咀嚼→過去の追体験→知識の組み直し→自分・社会への還元という作業を取りつかれたように繰り返す「知識獲得エンジン」とも呼べる。

 生存本能に照らして正しいアイテムを、人の脳は心地よい、美しいと感じる。生まれたての乳児にとっては母がそのアイテムである。新生児でも個々に快不快の歴然とした違いがわかっている。自分を死へと導く要因に不快感を抱き、不快感から逃れようと、必死に知識を獲得する。

 

言葉の2つの働きについて:

 言葉には2つの働きがあり、1つは相手に自分の脳内のイメージを伝えること。

 大人が陥る言葉の罠がある。自分の持つイメージを正確に表現することに熱中してしまいがちで、自分のイメージを表す言葉たちを見つけ出し、ひたすら理詰めで重ねる傾向がある。けれど、会話における言葉は本来、相手の脳内のイメージを喚起させるカギであり、相手の脳内に描いてもらいたいイメージを喚起するために言葉を紡ぐ。それが会話である。恋人との喧嘩も、不満を具体的に言うと共感よりも反感を呼んでしまう。ただ一言、「さみしい」だけでいい。

 大人は日々の生活の中で、金額や時間や名前など具象のデータを交換することに神経をすり減らすうちに、言葉が感応の核であることを忘れてしまう。言葉自体が重要なのではなく、相手に何を感じさせるかが大切である。言葉は受け手への「開けゴマ」なのである。冗長になるよりは、少し足りないくらいの方が聞き手のイメージを喚起しやすい。

 言葉のもう一つの働きは認識の場で使われる場合、つまり単独の脳が目の前の事象に言葉を与えるとき、言葉は逆にイメージの広がりに境界線を与える役目をする。目の前の事象から余分な情報を切り落とし、効率よく脳に認識させる道具である。イメージは記号(言葉、匂い、音など)とリンクしないと、後に脳から引き出せない。

 

本を著すことについて:

 本の著者は重畳がどういうところかも、最短ルートも知っているけれど、それをあえて語らずに、読者と一緒に山を楽しむ旅に出る。それでも足りなかったら別のルートの旅に出よう。