きまぶろ

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となりの少年少女A(草薙厚子)

 シグナルをとらえて情報共有を行い、早期発見、早期治療が行われれば悲惨な事件を減らすことができる。ASDの特性を持っていた少年少女の起こした特異な事件を挙げ、背景・環境・鑑定について解説している。

 

 発達障害は先天的なものであり、社会的コミュニケーション障害、限定された興味を持つASD。不注意、多動性、衝動性があるADHD。読む・聞く・話す・書く・計算する・推論するの1つ以上が1~2年程度遅れるLDの3つのタイプがある。

 ASDの特性をもつ人は「認知の歪み」があり、ストレスやプレッシャーがかかり続けると、周囲の言動が自分への悪意に感じることがある。空想にのめり込んだり、社会的に容認されない特異な興味を貫いたり、結果的に法に触れ、事件へとつながることもある。事件が発生すると心的要因や社会的要因だけで語りがちだが、加害者の生物学的要因、医学的背景も考慮する必要がある。法務省矯正局では動機が不可解な事件は「愛着障害」が原因であるとしてきたため、ASDの特性を持つ未成年には対応できなかった。

 双極性障害統合失調症強迫性障害、引きこもりなどの二次障害が犯罪行為につながるケースが多い。長期間施設に収容することで贖罪意識が芽生えるというのは定型発達者を想定したモデルで、ASDの特性を持つ人には合わない。

 大脳新皮質の部分には問題がなく、古い脳とされている大脳辺縁系に遅れが見られる。大脳辺辺縁系は集団行動や感情などに関連する部分である。大脳辺縁系には偏桃体、海馬があり、偏桃体は恐怖などの情動、喜怒哀楽の感情、愛着行動、攻撃性など、他者の感情理解に大きな役割を果たす。ASDの人は海馬の神経細胞の数が小さく、数が多い。

 ASDの人がSNSで発信をする場合、他人に共感を求めるものではなく、抑えられない衝動をぶつけている。

 

①神戸連続児童殺傷事件(1997年)

 いまだに信奉者もいるし、模倣事件も起きている。カリスマ化、神格化している予備軍もいる。

 少年は写真記憶を持つ「直接像素質者」であった。小動物を虐待し、人間を殺した「快楽の記憶」が鮮明にフラッシュバックすると思われる。

 ASD愛着障害には養育者と目が合いにくい、情動表現をあまり見せない、認知と行動に遅れがある、対人関係を円滑にするのが難しいなどの共通点がある一方で、こだわりや反復行動はASDにのみ見られる。ASDは先天的であるのに対して、愛着障害は後天的(環境要因)であるのが最大の違いである。

 

佐世保小6児童殺害事件(2004年)

 他者に対して寛容なところがなく、自分のオリジナリティに必要以上のこだわりがあった。

 家の前にはたくさんの菜の花が咲いていたのに、「菜の花」という名を知らなかった。他にもヒマワリ、モンシロチョウ、テントウムシの名も知らなかった。他者との関係の中で自分にとって直接的に利害のあるものだけを認識していた。

 仲良しならではの悪ふざけのなかで、言葉を表面通り聞き取り、それを自分への攻撃として受け止めてしまった。

 

③伊豆タリウム少女母親殺害未遂事件(2005年)

 少女は運動、遊戯が苦手でリズム感が欠けていた。鉄棒、平均台など高い所が極端に苦手だった。自分から話すことは稀で一日中黙っていることもあった。協調性がなかった。先の尖ったものが苦手で、針や鉛筆を見ると目がチカチカしたという。虫の観察、ビー玉集め、ウサギの観察など好きなことには熱中した。小5のときに輪ゴムを盗んだ疑いをかけられ、殻に閉じこもりがちになる。化学、美術、文学の面で才能を伸ばした。

 自作のクッションを擬人化し、思いをぶつける話し相手として、いじめや対人関係での苦しみを処理し、悲しみや怒りなどの感情を無意識に切り離した。

 「グレアム・ヤングの毒殺日記」に心酔し、ヤングをまねてアンチモンを入手し「自身と力」手に入れたと感じていた。意識的に自己の感情を切り離し、強く生きようとした。

 観察日記をつけるために、身近な人の中から母を選びタリウムを投与してしまった。

 鑑定では「自己中心性」「情性の希薄さ」「道徳感情の希薄さ」「攻撃性の強さ」「自尊心の強さと他責性」が指摘された。

 

④奈良エリート高校生放火殺人事件(2006年)

 両親とも医師だったが、父の暴力で離婚をし、父からは度を超えたスパルタを受けた。

 中2のときにカンニングをしたが、教科書とノートを堂々と出し、教師が目を疑う状態だった。

 その後も点数をごまかしたことが父にばれて暴力を受ける。「次に嘘をついたら殺す」と言われた。だが暴力を恐れて再び点数をごまかしてしまう。それがまたばれるので、保護者会の日までには何とかしないといけないと考え、さまざまな手段を実行に移そうとするが上手くいかずに保護者会の前日を迎えてしまう。正直に言っても殴られるし、嘘がばれれば殺されると悩んだ。やられる前にやるしかない。しかし、保護者会前日は父が病院に当直で手が出せなかった。仕方なく選んだのは自宅への放火。追い詰められた状況にもかかわらず翌日の学校の支度をしてあったし、犯行後のことは思い至らず、事件後のことについては無計画だった。

 鑑定では「広汎性発達障害(現:ASD)および暴力による持続的な抑うつ」と診断された。

 

佐世保高1同級生殺害事件(2014年)

 父は県内最大手の法律事務所や不動産会社を経営し、以前はスピードスケートの選手でもあった。母は東大卒で放送局勤め、NPOも立ち上げていたが、癌で死去。継母との新しい家庭を嫌い、春からは1人暮らしをしていた。頭もよく、スポーツも万能で中学では国体に出場した。「笑わない子」「頭が良すぎる」と言われていた。医学書を読んだり、動物の解剖にも熱中した。下校時に見つけた猫の死体に惹かれ、後に猫を殺すようになる。小6の12月、いじめたあいての給食に漂白剤と洗剤を混入する。両親が地元の有力者だったせいか、事件は大きくならなかった。中学では猫の解剖もし、「人を殺したい」と思うようになった。精神科医が殺人に至る危険性を指摘したが、対策は取られなかった。

 高1の7月に友人を自宅マンションに呼び、殺害したのちに死体損壊。父親は3か月後に自殺をしてしまう。

 鑑定では「重度のASD」「素行障害」「特異な対象への過度に限局した感心」「視覚優位の認知」「直観像記憶」「興味を持ったことを徹底して追求する行動」「不安や恐怖の感情が弱く、決めたことは迷いなく実行、完遂」と診断が下った。

 知的能力は高く、表面的には日常生活に適応できていたし、恵まれた環境もあり、抱えている特性が周囲に明らかになることはなく事件に繋がってしまった。

 

名古屋大学女子学生老女殺害事件(2014年)

 中3頃から男っぽい服装をし、一人称が「俺」になる。ナイフを持ち歩き、手斧も購入。周辺で猫の変死があった。グレアム・ヤングの毒殺日記を愛読し崇拝していた。高校でタリウム混入事件を引き起こすが、学校側が内輪で処理してしまった。宗教の勧誘に来た老女を手斧で殺害。その前後に郷里で放火を2回。

 責任能力の有無について最高裁で争う。