きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

むかえびと(藤岡陽子)

「母親の中に生涯残るものを、子どもは必ず置いていく。命を宿すことはそういうことだ」

 

 助産師として6年目の美歩が働くローズ産婦人科は少し問題を抱えていた。オペをできない院長、腕は確かだが金のためと割り切っているぶっきらぼうな佐野医師、どんなに忙しくても手を貸さず身勝手な振る舞いもある師長、そして、最近は美穂の後輩の様子までおかしい。救われる命、失われる命、望まれる命、遠ざけられる命を毎日、目の前で見るむかえびと。

 

 産婦人科に限らないだろうが、医療現場は過酷だというのが伝わる。人の命を預かる仕事で常に緊張感を強いられるし、不規則かつ長時間の勤務もあり自分自身の健康も保つのが簡単ではない。新しい命の誕生をまじかで見られる喜びもある一方で、中絶に手を貸さねばならないこともある。命の現場がリアルで克明に描かれているなかで、全体を通したミステリーの伏線がある。読みやすいのもいいし、命について考えさせられる一冊である。

 

 表紙の病院の廊下。よくみると床に雨が。