きまぶろ

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日経サイエンス 2018年8月号 AIの身体性

 今月号はAIと自殺防止の記事を読んだ。

 

◆AIの身体性(Self-Taught Robots)

 体験を通して自律的に学ぶロボットにより、ロボット工学の進歩と子供の発達に関する知見が得られる。

 脳は絶えず未来を予測しようと試みている。脳の高次の処理中枢は感覚器から受け取った信号に従って脳内モデルを絶えず改良している。予想したことと経験したことの違いを「予測誤差」といい、学習の際に大きな役割がある。実験では「指させ」、「叩け」など基本的な言葉による指示に従うことが可能だった。物体の名前が自分の特定の姿勢に関連づけられている場合に、より容易に新しい単語を習得できた。指を使って数を理解することもできた。

 幼児は予測誤差を減らそうとする生得的欲求が発達を促している。日十脳は他者との交流でも絶えず未来予測をしている。今回のロボットは社交性を高めるようにプログラムされていなくとも、予測誤差を減らすという動機のみで人を助けるような行動もした。

 ASDは予測誤差に対する感受性が高く、感覚情報に圧倒されてしまうため、結果が予測しやすい反復行動を好むようだ。これは未知の事柄から自分の身を守ろうとしているのである。一方でADHDは周囲の予測不可能な刺激に引き付けられている。

 単に適切な装置と回路があれば知能が生じるのではない。ロボットを人間の子供のように世話をする人が必要だ。健全な成長に必要な愛情と導きを与えてくれる代理親が必要である。

 

◆体で計算するコンピューター

 人口タコ足をランダムに振ると数分後には「パリティチェック」と呼ばれる基本的な非線形演算の計算方法を習得する。タコ足そのものが学習に必要な演算を蓄積するリザバー(貯水槽)となっている。タコ足、水面の波などの物理系に様々な非線形応答を起こし、その中から目的に合ったものを引き出して組み合わせることで答えを得る「リザバーコンピューティング」というシステムがある。これは脳から体への計算のアウトソーシングとも言える。生物は進化の過程で、その環境における生存に役立つ計算を効率的に実行できるような体の構造を獲得したと思われる。リザバーコンピューティングはニューラルネットワークと似ているが、重みの調節をするのはリザバーから出力を得るときだけである。このため、ニューラルネットワークよりもはるかに簡単で、CPUを使わず電子回路でも実行が可能である。コンピュータ上にバーチャルなリザバーを構築しなくとも、多様な非線形応答を示す物理系を直接使うこともできる。

 物理的リザバーには個性があり、形・大きさ・環境によっても応答が変わり、計算能力も変わる。あるリザバーが学習によって調節したパラメーターはその環境でそのリザバーでしか使えない。リザバーは自身の物理的な特性に合った、自身だけの計算方法を習得する。

 その体でどんなことができるかを問うことは、生物がなぜ今のような形をしているのか、物理系にどうしてある性質が備わっているのかという根源的な問題に新たな観点を与え興味深い。

 

◆自殺を防ぐ(Preventing Suicide)

 してはいけないことを示すのではなく、できることの選択死を提供する。自殺について単刀直入に質問することはデメリットがない。

 自殺防止プログラムの一つとして認知行動療法(cognitive behavioral therapy)が有効。

 1 自分の感情を把握し、それを変える感情調節能力

 2 特定の思考過程や思い込み、推測に捉われずに、新たな別の選択肢を作りだす認知的柔軟性