きまぶろ

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子どもの脳を傷つける親たち(友田明美)

 子どもの脳には敏感期があり、胎児期、乳幼児期、思春期にに強いストレスにさらされると生き延びるための防衛反応が起き、脳が物理的に変化し、脳機能にも影響を与える。従来は虐待という言葉が使われてきたが本書では「子どもに対する不適切な関わり」といういみのマルトリートメントと表現する。

(1)日常の中の不適切な養育

 虐待には身体的虐待(physical abuse)、性的虐待(sexual abuse)、ネグレクト(neglect)、心理的虐待(emotional abuse)の4つがある。児童相談所での統計によると最も多いのが47.2%の心理的虐待である。大人の側の加害の意図の有無は関係ない。「虐待というほどではない」と考えているせいで、行為そのものが見過ごされる可能性がある。しつけと称した虐待も横行しているし、親に話を聞いても保身や自己弁護が始まる。

 子育てはたいていの親にとっては初めての経験であり、試行錯誤を繰り返しながら子どもへの接し方や愛情のかけ方を学んでいく。どんなに気を付けて育児をしたとしてもマルトリートメントはある。大切なのは誤りを認め、子どもとのかかわり方を改善しながら、自身の行為を正していくことである。行為は取り消せないが、親子の関係は修復できる。

 暴力行為に頼る人は、自分の行為を「合理化」する傾向がある。「子どもの行為を正すための正当なしつけ」と信じてしまう。子の振る舞いを正すことに必死になるあまり、自分の行為を冷静に見られなくなっている。

 加害者である親を子どもが気遣ったり、被害のエスカレートを恐れ黙ったり、「被害を受けた自分が悪い」「自分は価値のない人間」と考えるようになる。

 親への尊敬を覚えることも大事だが、親に甘える時間も欲しい。目と目を合わせ、温もりを肌で感じてもらいたい。

  愛着の感覚が健やかに育つと、子どもは成長とともに外の世界へ踏み出せる。たとえこんなんな状況にぶつかっても安全な場所に戻れる。いつでもそばに安心できる人がいる。愛着障害があると、成人後も健全な人間関係を結べない。達成感への喜びが低く、やる気も意欲も起きなくなる。

 手を繋ぐ、だっこするなど直接肌が触れあるようにする。スマホなどの知育玩具は、親に心身の余裕ができるというメリットくらいしかない。一人遊びが上手で育てやすい子はスキンシップなどのコミュニケーションが不足していることがある。最初は嫌がっても遊び感覚でスキンシップしたい。

 夫婦間、祖父後から両親への否定の言葉や暴言があると、大好きな親がいやしめられたことに悲しむし、血のつながりを悲観し、自分まで否定されたと感じる。

 しつけとは、生きるのに必要なスキルとマナーを身に付けること。正すのは行動自体であり、子どもの人間性ではない。罪を憎んで人を憎まずである。最近、きつくあたっていると感じたら、今からでも軌道修正し、その反省の気持ちをぜひ言葉で伝えよう。子どもは許すことにおいては天才である。

 子どもにとって親に認められることは人生の基盤になる。

 子どもは家庭内でのことを敏感に察知する。自分が家族を守れなかったことに罪悪感も感じる。自分が被害を受けなかったことで、自分もまた加害者であると罪悪感を感じることもある。夫婦喧嘩は子どものいない場所でメールかLINEでお願いします。

(2)マルトリートメントによる脳へのダメージとその影響

 マルトリートメントで海馬、偏桃体、前頭前野、右前帯状回などにダメージを受ける。海馬は一次記憶に関する部位。偏桃体は情動に関する部位で、好き嫌い、敵味方などの価値判断を行う。危険と結びつく情報に敏感であり、恐怖を感じる部位である。前頭前野は学び、記憶に関わる部位で海馬、偏桃体をコントロールしている。前頭前野が充分発達しないと危険や恐怖を常に感じる状態になってしまう。前頭前野が損なわれるとうつ病の一種の気分障害、素行障害(非行の繰り返し)が起こる。右前帯状回は集中力や意思決定、共感に関わる部位である。特に6~8歳は心理的マルトリートメントの影響を受けやすい。

 体罰を受けた人は痛みを伝える神経回路が細くなる。これは体罰の痛いに鈍感になるように脳が適応すると考えられる。性的マルトリートメントの被害を受けると後頭葉の特に左側の視覚野の容積が減少する。顔の認知に関わる紡錘状回の一次野を中心にダメージを受ける。これはワーキングメモリである視覚的メモリ容量の減少を招く。右利きの場合、右の視野は全体像、左の視野は細部を捉えるので、見たくもない情景の細部を見ないで済むように無意識化で適応すると考えられる。苦痛を伴う記憶を繰り返し呼び起こさないために視覚野が減少する。

 暴言により聴覚野が肥大する。シナプス数が爆発的に増えるのは乳児期で、シナプス数は成人の1.5倍にもなる。その後、刈り込みが行われ、神経伝達が効率化される。暴言で刈り込みが進まず、シナプスが伸び放題になるときがある。無秩序なシナプスだと余分な負荷がかかり、心因性難聴、情緒不安にもなり、人と関わることをさけるようになる。脳の発達の初期段階は遺伝子でほとんど決定されるが、その後の発達過程では環境の影響も大きい。

 愛着障害のばあい、報酬系の反応が鈍くなっている。ちょっとしたことでは快楽が得にくく、自己肯定感が低く、叱られるとフリーズし、ほめ言葉もなかなか響かない。陽低下した機能を活発化させるため、「ほめ育て」が必要だ。

 生きていく環境が危険や不安に満ちていて、そのうえ周囲からの助けもないと自分で何とかしようと、脳の形が変化していくのである。

(3)子どもの脳の持つ回復力を信じて

 まずはその子の安心、安全を保証する。

 援助者はしっかりした信頼関係の土台を築く。「いま私はあなたのことをとても大切に思っている。あなたの話を丁寧に聞きたい」と言葉で伝える。話しができるようになったら「あなたは決して悪くなんかない。あなたのせいで起きたわけではないので自分を責めないで」と繰り返す。その子を支え、見守っていくという意思表示をし、自分は悪くないと気づかせる(認知の歪みを取り除く心理教育)

 共同注意→子どもが何かを見つめていたら、寄り添って一緒に眺めてみる。

 他にも遊戯療法、箱庭療法などがある。

 親もまた不適切な養育環境を必死に生き抜いてきた被害者の可能性もある。

(4)健やかな発育に必要な愛着形成

 親や身近な人が子どもに対して積極的に使いたい3つのコミュニケーション

 ・繰り返す(ミラーリング):「真っ赤なリンゴだよ」「ほんとだ、真っ赤なリンゴを描いたんだね」

 ・行動を言葉にする→「あら、お片付けしているのね」→興味、関心を示しているのがわかり、自分は良い行動をしていると学習できる。

 ・具体的に褒める→親も良い気分になるし、良い関係が築ける

 

 避けたい3つのコミュニケーション

 ・命令や指示

  子どもから主導権を奪ってしまう。子どもが自分の声に従うことを希望しているが、もし子どもが従わなければ、親の気分も悪くなり、子どもも楽しめない。

 ・不必要な質問

  考え事をしている子どもに「何について考えているの?」などと聞くと、子どもの行動を中断させ、集中力を切らせてしまう。質問の仕方が詰問調になることで、子どもの考えに反対しているニュアンスにのなってしまう。

 ・禁止や否定的な表現

  親子間に不愉快な相互作用が生じる。かえって子どもの否定的な行動を増やしてしまう。

(5)マルトリートメントからの脱却

 2歳ころのイヤイヤ期は前頭前野が未発達なために起こる。この時期は叱っても無駄であり、必要なのは「見守る」という姿勢。親が怒りを抑えるためには「アンガー・マネジメント」が有効。怒りは自然な感情で、それ自体を否定する必要はない。怒りを適切に処理するためには、怒りの種類を知り、その原因を探り、そしてその気持ちを上手に相手に伝える。

 マルトリートメントを認知しても、親を罰するのではなくサポートする方向でいきたい。