きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

ガラスの殺意(秋吉理香子)

「できるだけのことを、できるときにやってあげるだけでいい。できないことをやらないのは、悪くもないし間違ってもいない。自分を責めたり罪悪感に押しつぶされるのは、全く無意味だと思います。」

 

 19年前に通り魔から逃げ、道路に飛び出したときに車に轢かれてしまい記憶障害を負った麻由子は事件で両親を失い、通り魔は心神耗弱で減刑され仮出所している。夫が取材で留守の間に自宅でかつての通り魔を殺したと麻由子自身からから通報を入れる。麻由子は自分を轢いたジャーナリストと結婚していた。認知症の親をかかえる刑事は麻由子夫婦に自分と親を重ねてしまう。そして不自然な行動を重ねる夫は捜査員を振り切って逃亡する。夫の目的は何か、麻由子は本当に通り魔を殺したのか。

 

 衝撃的なオープニングから引き込まれる。留置場での麻由子の描写も不安を掻き立てる。最も怪しい人物が犯人とは限らない。登場人物も絞っていて読みやすい。ミステリーとしても面白いのはもちろん、それだけではなく認知症の家族を抱える大変さも伝わってくる。ミステリーとしては「聖母」も面白かったが、こちらは小説としても楽しめ、読み返してみたくなる。何より緊迫感が途切れないのが素晴らしい。