きまぶろ

本とアニメと気ままな生活のブログ

春から夏、やがて冬(歌野晶午)

 出世街道を進んでいた平田誠は一人娘は17歳の時にひき逃げで失い、時効直後に妻が自殺する。東京を離れスーパーの保安係へと部署を変え一人で暮らすが捕まえた万引き犯が娘と同じ年の生まれと知ることで事態が変化していく。

 

 表面的には末永ますみが殺され平田がその殺人を認めるという結末になっている。だが解説でも示唆されているように、ますみが死に至る経緯には別の可能性がありそうだ。ますみの手記はどこまでが本当なのか、自分の死を覚悟していたのか、2000万円はいったい誰に渡したのか、同姓同名がいたという伏線、平田が手を差し伸べようとしていた女性はますみだけではない。

 まことの名が真でなく誠なのは、真実と誠実の二者択一を迫られたとき誠実を選ぶともとれるか。

 「葉桜の季節に~」をどうしても意識してしまう。葉桜は叙述トリックありきの作品で改めて読み直そうとは思えない。こちらは一般小説に近く、心情の変化を追う作品であり、時間をおいてまた読み直したくなる。