きまぶろ

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日経サイエンス2018年12月号 新・人類学

 PD1(programmed death1)はT細胞で発見され、当初は細胞死に関する分子と思われが、のちに免疫システムのブレーキの一つであることが判明。がんはこの仕組みを悪用していることもわかった。2014年、抗PD1抗体を使った「オプジーボ」が世界に先駆けて日本で発売され、奏効率は30%である。

 PD1は哺乳類に広く認められる分子である。老化と共に遺伝子変異は蓄積していく。自己が非自己へとゆっくり近づいていくのである。PD1は自己と非自己の閾値を下げ、老化した細胞を事故と認識し、免疫系が体中を攻撃しないようにしている。

 PD1の他にCTLA4というブレーキもアメリカを中心に研究されたが、抗CTLA4抗体は抗PD1抗体以上に副作用が強い。

 従来のがんの治療法は免疫細胞そのものを活性化させていたが、免疫チェックポイント阻害剤は免疫のブレーキを外すことでがん細胞を取り除く。どんなにアクセルを踏んでもブレーキがかかっていては前には進めない。

 

・ヒトがヒトを進化させた(An Evolved Uniqueness)

 人間がここまで進化できたのは、他の個体のやり方を正確に模倣し、世代を超えて知識を伝達する能力を獲得したからである。遺伝子の継承と文化の継承が進化上では重要な役割を果たす。

 ホモ・サピエンスは多くのホミニンと異種交配をしていたことがわかっている。紫外線を防ぐために皮膚の色は濃かったが、北上するにつれ充分なビタミンDを得るために色が薄くなった。これはヨーロッパで暮らしていたネアンデルタール人の遺伝子に由来する。また、チベット人の低酸素対応はデニソワ人の遺伝子に由来している。他にも、アフリカ人の口腔細胞撃退は未知のホミニンの遺伝子由来である。鬱の原因遺伝子の一つがネアンデルタール人から受け継がれた。

 2つの集団が出会うことで自術的、芸術的想像の爆発もあった。ホモ・サピエンスは異種交配が多く、多様化し、適応したため現在まで生き残っているとも言える。

 

・モラルを生んだ生存競争(The Origins of Morality)

 協働作業で重要なのは仲間の選択である。認知力不足、社会的・道徳的協調性を欠いた人は仲間に選ばれず食いはぐれた。他者とうまくできる個体に強い選択圧がかかっていた。そして集団の他メンバーに対する尊重と公正さも育んだ。その後、人口増加で集団アイデンディティが強固になり、文化的習慣や社会規範が培われた。「共感」も発達し、他者の評価を気にするようになる。自分と他者が同等であるという理解に基づく更生の感覚も養われた。