魚だって考える(吉田将之)
「こころの生物学」を研究する広島大学教授による、魚のココロについての本。学生に研究テーマを割り振る際に、特技を生かしてもらったり、そのテーマの意義について理解してもらったりと、教育者としても好感が持てる。
以下は面白かったところ。
人間にとっての頭の良さのお延長で判断すると、人間がいちばん賢いことになる。人間のルールだから当然で、生物によって「得意科目」は異なる。生物によっては「学習しないこと」が賢い場合もある。
恐怖は自分の生存を脅かす対象を認知して「あいつが怖い」という状態で、対象がいなくなると速やかに消失する。不安は対象が目の前にいなくても、自分い害が及ぶ可能性を認知している状態で、可能性がる限り長く続く。恐怖と不安はまじったり、行ったり来たりする。
「恥ずかしさ」は人間の進化の過程で、社会性を保つ必要から生じた。
何かが自分に迫ってくるとき、その物体が急に大きく見えることを「ルーミング刺激」と呼び、ディスプレイ上のアニメーションでも起こる。たいていの動物はルーミング刺激を回避する反射的行動をするとともに恐怖する。逃げる(=行動)が先で、恐怖する(=意識)は後。
恐怖や不安、 喜びや快感などをまとめて「情動」といい、自分自身の種の存続に関わるような状況で引き起こされる心と体の反応。情動と感情は似ているが、感情は気づきをともなう主観的な意識体験に重きを置く。恐怖情動は人間の場合、はっきり表情に表れる。他の動物の場合も表情や姿勢から読み取れる。
捕食される動物は追い回される前に恐怖を感じ取れれば生存確率が上がる。これには仲間の警報物質が関わってくる。おなじ仲間の表皮物質を少量でも感じると警戒する。同じ地域に生息する別種の魚の警報物質にも反応する。警報物質は少量で効果がある一方で、人間活動による物質の外乱も受けやすい。
恐怖は経験つまり「学習」による。しかも速やかに学習する。サカナも哺乳類と同様に小脳が重要な役割をしている。
怪我をした魚は自分の体液と近い浸透圧の水域に移動することがある。人間は何かを「知っている」ことを知っている(気づいている=メタ認知)が、魚も海は塩分濃度が高く川は塩分濃度が低いことに気づいているのだろうか。