日経サイエンス2019年1月号 免疫と脳
・挑む
アンモニア合成で100年以上も不動の地位にあるハーバー・ボッシュ法に代わり、環境負荷の小さい合成法を探す原亨和は触媒を使った画期的な方法を模索している。科学技術の目的には真理探究、生活向上、生き残りの3つがあるが、原は生き残りのための科学技術を目指している。特に原の研究はグリーンケミストリーの好例となる。
・レム睡眠
神経伝達物質のアセチルコリンが関与している。遺伝子としてはChm1、Chm3が関与しているようだ。また、レム睡眠は生存には必須ではない可能性も出てきた。
・神経免疫学 "The Seventh Sense"
独立だと思われた脳と免疫系は日常的に相互作用があった。免疫細胞の出すサイトカインは脳の前頭前野に働き、社会行動を変えていた。免疫には自然免疫と獲得免疫の2つがある。自然免疫は10億年前に進化し、外敵を素早く検出すが精度は低い。獲得免疫はT細胞、B細胞が中心となる。自己免疫疾患のひとが約1%存在する。 多発性硬化症なのでは脳血液関門の特性が変化し、免疫細胞が関門を通過することもある。病原体の中には脳に到達する物もあり、免疫系がこれらを無視するとは思えない。脳内に病原体が少ないのは脳血液関門の監視が厳重だからではなく、免疫系が極めて効果的身働いて、病原体が中に入れないためと思われる。
人でも免疫系とPTSDを結びつける証拠が出てきたし、インターロイキン17は大脳皮質のニューロンに作用し、ASDに関連する行動を変化させていた。統合失調症や鬱の症状を説明するモデル(病態仮説)として、ドーパミン仮説やセロトニン仮説が長年提唱されてきたが、ミクログリア(脳内免疫細胞)の過剰な活性化で様々な精神疾患や精神症状が引き起こされている可能性があり、これを「ミクログリア仮説」と呼ぶ。ミクログリアは脳の10%を占める免疫細胞で、以前は脳内マクロファージと呼ばれた。正常時(静止型)は樹上に突起を伸ばし、脳内の環境変化をモニタリングしている。また走化型として、マクロファージと似た性質を示せる。ドーパミン受容体があり、活性化状態でなうとも、シナプスとコンタクトを取っている。統合失調症やうつ患者(特に自殺者)、ASDではミクログリアの過剰活性化が確認された。「ストレス→ミクログリア活性化→神経シナプスへ影響→精神症状の発生」という流れの可能性がある。
・巧妙化するフェイク動画
最大の脅威は人々が疑心暗鬼になり、何も信じられなくなること。
フェイクニュースは人の感情と個人のアイデンティティに訴えかけ、金銭、自然災害、テロよりも特に政治的話題で素早く広まる。これは人々が目新しさに飛びつくためと考えられる。フェイクの内容が衝撃的で恐怖心を煽る、あるいは腹立たしいものほどシェアされる傾向がある。携帯端末などの小さな画面では、フェイク動画の不自然さが目につきにくい。
・プロバイオテックスの虚実
腸内細菌は40兆くらいいて、数億程度の菌では変化しないし、ビタミン剤は逆に有害なこともある。特定の疾患や抗生物質使用時には効果があり、日和見感染の防止にもなる。抗生物質で腸内細菌が全滅しても、環境からわずかな微生物を獲得すれば、人は健全なマイクロバイオームを再構築できる。
・歯が語る人類祖先の食生活 The Real Paleo Diet
動物が何を食べるかは歯のサイズと形によって決まると考えられてきたが、季節ごと、あるいは長い時間スケールで変化する食物の入手可能性のほうが動物の食物選択においては重要らしい。歯の特殊化は偏食ではなく、より広範な食物摂取につながり、食物の乏しい時期も生き延びられる。入手可能性、競争、個体の好みも食物を選ぶ要因になる。ヒトの進化もサバンナ仮説に代わり、多様性選択仮説の方が実情に近いかもしれない。人が草原に降りた時期は確かにサバンナ化があったが、それ以上に激しい気候変動があり、種類豊富な食物を摂取できたためヒトは生き残ったが、他のホミニンは滅んでしまった。
・太陽黒点の活動周期
11年ごと(シュワーベ周期):太陽地場の周期的な反転に寄る
88年ごと(グライスベルク周期):太陽時局のぐらつき
200年ごと(シュース・ド・ヴィリエ周期)
2400年ごと(ハルシュタット周期)
英語:
central nervous system(CNS):中枢神経系 ⇔peripheral nervous system
cranial nerve:脳神経 cranial:頭蓋
spinal cord:脊髄
incisor:門歯
molar:臼歯
endometriosis:子宮内膜症 metri-:母・子宮
laparoscopic surgery:腹腔鏡手術